7万年の時の流れを見てきました
お盆休みを利用して、福井県三方五湖の傍に建つ「福井県年縞博物館」に行ってきました。
年縞と聞いてもピンと来ない人が多いかも知れません(私もその一人でした)が、毎年、湖の底に積もっていく堆積物の事で、三方五湖の一つである水月湖には、様々な環境要因が重なった結果、奇跡的に7万年の間、深さ45mに渡って、プランクトンや鉄分、湖周辺の花粉や飛来した火山灰や黄砂、洪水の土砂などが途切れることなく堆積し、それが縞模様になって残っているそうです。1年分の年縞は1ミリにも満たないとの事です。
関係者の尽力でその完全な発掘作業に成功した水月湖の年縞は、年代決定の世界標準のものさしに採用され、世界の歴史、考古学に欠かせない役割を担うまでになっていて、この奇跡の年縞を世に広く知らしめるため、2018年9月にこの年縞博物館が開館しました。
(以上、年縞博物館解説書より一部抜粋)
湖と川が近い立地なので、冠水の影響を受けないよう鉄筋コンクリート造のピロティ―の上に展示室を持ち上げ、年縞を展示するための長大なコンクリートの壁の上の鉄骨トラスが、木造の大屋根を支えるというハイブリッドな構造。
尊敬する建築家である内藤廣さんの設計ですが、その明快で直截的な姿の美しさに心を奪われます。
工事に当たっては、地元の建設会社が総力を結集したと思われる素晴らしい仕上がりの建物です。
水月湖の年縞は特殊な技術で、光を透すほどにスライス・研磨されて2枚のガラスの間にはめ込まれ、全ての年縞の実物が45mに渡って展示されています。結果、建物は横に長い直截的な形状となって、水月湖の方に向かうよう配置されています。
展示室でボランティアの方が、小学生の男の子に声をかけていました。「ボクは今何歳かな?」「9歳です」と男の子。「9歳か~じゃあこの年縞でいうとボクが生まれてから今まで、まだ数ミリだね」「え~っ」と驚く男の子。なるほど、とすると。。昨年古希を迎えた私でも、せいぜい数センチか!!
年縞博物館発行の解説書によれば、現代の安定した気候は氷期と氷期の間に束の間やってくる例外的な状態にすぎず、そんな気候の安定した時代であるからこそ文明が発達したのだと言います。これまでの歴史を見ると次の氷期は必ずやってくるはずであり、また一方で人間活動に起因する地球温暖化がこれまでの安定状態とはまったく違うモードに運びさってしまう可能性も否定できない、とのことです。
そう考えるとこの年縞が映し出す悠久の時の流れの中では、人間の一生などはごくごく小さく取るに足らないものであり、また今この世界全体が現在の人間のために存在しているのだ、という思い上がった意識などは、早々に改めるべきではないかと考えさせられます。
建物自体の素晴らしさに加え、年縞を通して先進的な現代の科学が導き出す地球や人類の歴史に、改めてじっくり想いを馳せることが出来る貴重な博物館です。
地元ボランティアの方の楽しく興味深い説明を聞きながら、目を輝かせて展示に見入る子供たちの姿が印象的でした。
<にわか年縞マニアより>